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連載106 下田幸二のピアノ名曲解体新書
(レコード芸術2019年10月号より)


邦(邦人の枠に収まらない、わが国が誇るべき名演奏)
典(ピリオド楽器や古典奏法などまさに古典と呼ぶべき演奏)

時代楽器の理知的アプローチ

上野真は、「ソナタ第2番」の録音に1852年製エラールを用いている。この作品のダイナミズムと鍵盤の反応を考慮してとのことだが、それは大成功と言ってよい。厳かに序奏が始まる。ピッチは4分の1音近く低く古の時へ誘う。展開部のクライマックスは全く明瞭な音価とショパンのペダリングへの配慮である。第2楽章のスケルツォのリズムは実に明快。「葬送行進曲」においても、ショパンのペダリングを極力生かし時に慄き、時に優しく歌う。エキエル版を底本にスターリング嬢の譜やイギリス初版まで研究する一方、第1楽章のリピートは伝統の第5小節回帰である。たいへん理知的なアプローチ。1846年製プレイエルで「葬送行進曲」のみも同収。名手上野真渾身の1枚。