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People 上野真(ピアノ)
(音楽の友2014年12月号より)


取材・文=上田弘子

リストが好んで弾いていたエラール・ピアノ1852年製の楽器で説く

□ 『オリジナル・フォルテピアノ・シリーズ』での新譜はリスト。ベートーヴェン(1820年製M・シュタイン、1816年製ブロードウッド)やショパン(1846年製プレイエル)の時とはまた趣きの異なる音色と響きを堪能しました。このエラール(1852年製)でショパン(『ピアノ・ソナタ第2番)も弾かれていますが、作品が違うとはいえ、別の楽器のように聴こえますね。

◇ 弾いた曲や録音場所も違いますが、エラールの可能性の広さとも言えるでしょうね。ピアノ音楽の黄金期はロマン派の時代と言っても過言ではないですし、近代化が進んだ19世紀とはいえ個性的な時代でした。それは音楽家だけではなくピアノ工房も然りで、1850年代のエラールが、中のハンマーフェルトなどほぼ当時のまま、よく残っていたと思います。改めて当時の楽器の魅力を実感し、そしてリストの素晴らしさ』

□ フォルテピアノならではと言いますか、打鍵後の余韻が波紋のよう。そしてリストがなぜそう書いたのか、スタッカートや休符など、音符一つひとつの意味を改めて感じ入りました。

◇ スタッカートといえば、1980年代、アルゲリッチを経てポゴレリチに見られるように、物凄くシャープに弾くことが流行りました。鋭角的な傾向は、あの当時に求められていた感覚かもしれません。僕なども、師のボレット先生に『そんなに短く弾くな』と注意されました(笑)。自筆譜を見ると様々なことを知らされますし、またリストの楽譜は完璧なんです。同じスタッカートでも意味が違う。リストは楽器を知り尽くしていましたから、ニュアンスまでも記せる人でした。

□ 楽譜をよく読む。様々な版を見比べてみる。演奏する上では当たり前のことなのですが、考古学者のように探求していくことを、若い世代はスマートフォンで済ませる時代。

◇ 情報の氾濫とネット社会。便利なようで生きにくい時代ですが、その便利さを上手く使えば有益この上ない。素晴らしいからリストは未だに弾かれるわけで、僕は悲観せずいます。