Reviews


コンサート批評
◆上野真ピアノ・リサイタル


「現在、聴き逃したくないピアニストは」と問われたら、私はまず上野真の名をあげる挙げるだろう。何故ならば、上野の音楽に対する探究心は(作品に関しても技巧的な面においても)、聴き手の知的好奇心を大いに刺激し、音楽の真理を改めて考えさせてくれるからだ。「個性」とか「ピアニズムの流派」とか、時として言葉が先行しており、そこに奏者をタイプ分けするのは優しいが、それは短絡的でもあり諸刃の剣ともなりかねない、本質を見失う危険もある。感情と理性のバランスを正してくれて、かつ心を熱くしてくれる上野は今回、バッハ/ブゾーニ:シャコンヌ、ショパン:24の前奏曲、バルトーク:3つの練習曲、ドビュッシー:12の練習曲を。やっと出会えたと膝を叩いたピアノ版シャコンヌの名演。喜怒哀楽が立体的とも言え愉しめたバルトーク。1曲でも名曲だと再認識し、各調の個性やその連なりの妙味を感じたショパン。ドビュッシーでは作者独特の響きはもちろん、遡っての系譜も垣間見えた見事な技。巧みで匠の上野、益々期待。 (2006年12月16日浜離宮朝日ホール
(上田弘子)