Writings
「演奏会に寄せて」
(2004年秋フォルテピアノ演奏会についての文章より)
そもそも、今回のフォルテピアノの演奏会は、京都だけでひっそりと、特に大学で教えていることもあり、私自身にとっても又学生にとっても、視野を広げる良い勉強になるのではないかと思って行おうと計画していたものなのですが、有難いことに少しずつ広がって、東京など各地で演奏することになっています。
ベートーヴェンのソナタ、ショパンの練習曲というピアニストにとって最も付き合いの深い作品を取り上げる理由ですが、これは特に、昨年CDに録音したリストの超絶技巧練習曲と取り組んだ後にふさわしいのではないか、と思ったからです。
このリストの練習曲は、これから人生何年生きられるか、ピアニストとしての活動はいつまで出来るか分からないけれども、40代になっても50代になっても総合的な意味での技術を磨き続けていきたい、その基礎を少しでも高めておきたい、と思い取り組んでみたのですが、それはベートーヴェン、ブラームス、ショパン、バルトークなどを、より説得力を持って弾けるようになりたいという意味もありました。それによって純粋なピアノの技法上のことでも、今まで余り意識していなかったことを多く気付く結果となりました。(例えばベートーヴェンは、よく精神主義の下に語られますが、ベートーヴェンを素晴らしく弾くためには、最高の技巧、技術が必要であり、現代のピアニストにとって、リストはピアニズムのひとつの頂点であり続けている訳です。)
そして、これは偶然ですが、今年は、20世紀音楽の二人の巨匠、バルトークとメシアンをオーケストラと演奏することがありますので、リサイタルは、19世紀の重要な作品ということで選びました。
また、最初はオールショパンプログラムをプレイエルで演奏したいと思っていて、ヤマモトコレクションを訪問したのですが、たまたまそこにシュタインがあり、山本さんに弾かせていただいているうちに、プレイエルをシュタインと比べることによって、より興味深くピアノの発展を聴くことができるのではないか、というアイディアが生まれたのです。
プレイエルはフランスの楽器ですが、もともとプレイエルという人は、ハプスブルク圏の出身でフランスに移住した人です。ですから、ほかのフランスの楽器、例えばエラールと比べても、よりウィーン式の楽器の性格を受け継いでいます。そのようなことも2台弾き比べる事によって味わえると思いました。ショパンが子供の頃に弾いていた楽器も、きっとウィーン式のメカニックの楽器だったはずです。
とはいえこの2台は、製作された時期には25年ほどの違いしかないのにかかわらず、弦の太さは2倍、張力も2倍、ハンマーは革からフェルトに変わり、ハンマーの大きさも3倍近くになり、鍵盤の下がる深さも5mmから8mmに変わるなど、大きな違いがあります。もちろん現代の楽器は更にもっと変わってきているわけです。また音域についても重要なことがあります。今度ベートーヴェンを演奏する楽器、シュタインは6オクターヴの楽器ですが、一番下の音から上の音まですべて使います。この楽器で演奏していると、現代の楽器で演奏するのとは異なる緊張感、限界ぎりぎりのところでの葛藤というようなものが、フィジカルな意味でも、弾くものに伝わってくるのです。
ペダルの機能も現代のピアノとはかなり違うところがあります。そのような事を少しでも知った上で、現代の楽器による昔の作曲家の作品を演奏するのと、全く知らないのとでは、やはり結果が違ってくると思い、一つの試みとして、演奏会を計画しました。
当日の楽器のコンディションが、(又自分自身の方もですが)良いことを祈っているところです。